大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(う)367号 判決

被告人 岸本真堅

〔抄 録〕

所論は要するに、原判示第二の事実について、本件事故は被害者方の雨戸等を損壊しただけで、深夜でもあり道路交通秩序に混乱を招くことはなかったから、警察官に対する報告義務は事故の態様に関する客観的事項の報告で足りるところ、被告人は事故発生直後、被害者奥山晃子に対し、「警察に連絡してくれ」と言って電話による事故通報を依頼し、同女がこれに応じて電話で右通報を始めたことを確認してから現場を立ち去ったのであり、右行為によって事故報告義務を履行したと認めるべきであるのに、原判決が右行為によっても被告人は当該事故の報告義務違反を免れないと判断したのは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、検討すると、原判決が挙示する関係各証拠によれば、原判示第二の事実の認定及びこれに対する法令の適用は、相当としてこれを是認することができる。

すなわち、原判決が(弁護人の主張に対する判断)において説示するとおり、被告人は本件事故発生直後、一旦車から降りて被害者方玄関内に出てきた奥山晃子に対し、「警察に連絡してくれ」と言って事故の通報を依頼したのであるが、同女が奥の部屋に引込んで警察に電話をかけ始めると、警察に連絡されたら自己の無免許、飲酒運転が発覚してしまうことを想起しこれを恐れ、右奥山の電話中にその内容をなんら確認せず、車を現場に放置したまま逃走したものであるところ(関係証拠によれば、被告人の車両は先端は奥山方軒先に衝突し、車体の大部分は斜になって道路の左側部分をふさぐ状態になっていて、道路交通秩序に混乱を生ずるおそれがあったと認められる。)、他人に依頼して道路交通法七二条一項後段の報告をする場合には、警察官をして事故の態様、損壊の程度、道路交通上の支障の有無等を的確に把握させ、速やかに適切な対応策をとらせるため、右把握ができる程度の具体的かつ正確な内容を報告する必要があると解すべきであるが、被告人は単に「警察に連絡してくれ」と被害者奥山に言っただけであり、奥山がこれに応じて警察に通報した事項は、「私の家に自動車が衝突して雨戸等がこわされた」という程度に過ぎず、自動車の車種、大きさ、物の損壊の程度、道路交通上の支障の有無等は、被告人が電話中に立ち去ったため、なんら報告する手がかりもなく、不完全な報告にとどまったことが認められる。

また、道路交通法七二条二項の、前項後段の報告を受けた警察官が、道路における危険を防止するため必要があると認めるときは、当該報告をした運転者に対し、警察官が現場に到着するまで現場を去ってはならない旨を命ずることができるとの規定も、本件のように運転者が立ち去った場合にはこれを活用する余地がなく、この点からしても被告人の前記行動は、当該報告義務を完全に履行したものとはいえないことが明らかである。

そうすると、原判決が被告人の前記行動をもって、道路交通法七二条一項後段所定の報告義務を完全に尽したとはいえないとした判断は相当であって、なんら法令適用の誤りはないから論旨は理由がない。

(海老原 和田 新田)

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